第2回:幸せの秘訣は、執着せず日常を楽しむ工夫(デンマーク編)

「50か国をめぐって教えてもらった世界の幸せ」第2回は、北欧の福祉国家デンマーク編です。デンマークは2017年のワールドハピネスレポートでは2位でしたが、2013年、2014年、2016年と世界一幸せな国に選ばれています。

数年前にデンマークを訪れ、現地でレストランを経営している知人や、世界で最も刺激的といわれるビジネススクール「カオスパイロット」に通いながら現地の幸せを取材されている日本人留学生の方など、いろいろな方々にデンマークの幸せについてディスカッションさせていただく機会をいただきました。

デンマークは、九州ぐらいの面積の国土に、兵庫県や北海道とほぼ同じぐらいの人口約570万人が住む小さい国です。でも、一人当たりGDPは日本の約1.5倍の約600万円と、残業がほとんどないにもかかわらず労働生産性も高く、ワークライフバランスが非常に良い国です。

デンマークと言えば、「ゆりかごから墓場まで」といわれる世界最高水準の高福祉国家で、幼稚園から大学までの学費も無料、医療費、出産費用も無料です。また、格差が少ないことでも有名で、大金持ちもいなければ貧困層も少なく5%程度(日本の3分の1ほど)だそうです。また、ホームレスを見かけることはなく、犯罪も少ないようです。

驚いたのは、王女が自転車でスーパーに買い物に行く姿を見かけることがあるということ。また、ほとんどの家にはカーテンもなく、ベビーカーに子供置き去りにしながら食事をするのも一般的だそうで、それだけお互いの信頼性が高く安心して過ごせる国であることがわかります。

でも、このようなことが実現できるのも税金が高いからで、所得税は40%~60%(日本の最低税率は地方税とあわせて、15%、最高税率は55%)、消費税は25%と、GDPに占める税金や社会保険料の国民負担率は約70%(日本は約38%)と非常に高く、みな貯金はほとんどできないといいます。これだけ高いお金を国に納めているからこそ、国民も政治に関しての関心も高く、国民の政治参加率は過去最低でも85%、高いときは、90%と、政府に対する信頼も高いようです。

たしかに、高福祉が実現して成功している国と感じられます。でも、本当にデンマークに住む人は幸せなのでしょうか。インタビューさせていただいて最初に感じたのは、“幸せ”というより、“不安はない”という意味での幸せなのでは、という印象です。

そして、さらにお話を伺う中で、3つの幸せのキーワードがあることに気づきました。

ヒュッゲ(hygee)

まず一つ目のキーワードは、「ヒュッゲ」。「ヒュッゲ」とは、ひとことでいえば「心地よさ」を表すデンマーク独自の概念です。人とのつながりを通してあたたかさや癒やし、ささやかな時間を大切にし、好きなことに囲まれて過ごすこと、を意味するそうです。

どうやら、この「ヒュッゲ」に象徴されるデンマーク流の考え方や時間の過ごし方が、個人レベルの幸福度を高めている大きな要因となっているようです。

デンマークでの一般的な就業時間は9時~4時(7時間)、残業は基本はなし、年間6週間の有給休暇があります。さらに、年に5日、就業時間内にボランティア活動をするのが決まりなど、自由な時間がつくれる国です。

また、政府の自転車政策により、自動車の価格は日本の2〜3倍のため、自動車でなく自転車が主流で、自転車に優しい街づくりが実現されていて、とても健康的です。

このようなことからも、「ヒュッゲ」が実現しているのではと思います。

ヤンテの掟(Jante Law)

現地の人とお話をしていて、よく耳にするキーワードがヤンテの掟(Jante Law)という言葉です。

「ヤンテの掟」は作家のアクセル・サンデムーセが1933年に書いた小説「A Fugitive Crosses His Tracks」の中に出てくる10カ条のルールで、小さいときに学校で習った記憶がある、というお話のようです。

1 自分を一角の人物だと思ってはならない
2 自分のことを、私たちよりも優れていると思い上がるな
3 自分のことを、私たちよりも頭がよいと思ってはならない
4 自分のことを、私たちと同じくらい価値があると想像し、自惚れに浸ってはならない
5 自分のことを、私たちよりも多くを知っていると思ってはならない
6 自分のことを、私たちよりも重要であると思ってはならない
7 自分のことを、大物だと思ってはならない
8 私たちの事を笑ってはならない
9 私たちの誰かが自分のことを気にかけていると思ってはならない
10 私たちに何かしら教えることができると思ってはならない

これらはすべて自分へ向けての言葉のようで、日本人に礼儀作法を大切にする国民性があるように、もしかすると、デンマーク人には「ヤンテの掟(Jante Law)」が深いところに記憶され、共通の国民性につながっているのではないかといわれています。

執着しない、受け入れる

基本的に、デンマークの人は、お金をかけずに楽しめるタイプでだそうで、野心的でないからあまり失望することもなく、執着せず、現状を受け入れ、満足する人が多いそうです。

よい例がオリンピックで、日本ではメダルに執着し、プレッシャーや期待が大きすぎで結局押し潰されて力を出し切れなかったという残念な結果になる事がありますが、デンマーク人ははじめからあんまりメダルは期待していないそうです。選手たちも「勝ったら嬉しいけどメダル取れなくてもよい」というゆるい感じでチャレンジすることが多いと。その方が、かえって執着せず、リラックスした分よい結果になることもあるそうです。

このように、執着せずに、毎日健康に気を配り、余裕のある生活を心がける。1日で多くのことを成し遂げるよりも、プライベートの時間を確保してリラックスすることを重視することが、幸せにつながっているようです。

あるデンマークに住む日本人の方から、以下のような本音を聞くことができました。

「日本からデンマークに移り住んでみて、デンマークの生活は正直退屈です。自分で考えてクリエイティブに過ごさないと楽しめない。でも、だからこそ、自由な時間を楽しむ工夫をするのです」

確かに、忙しい日本人からすると、時間に余裕ができたら、逆に何をしていいのか悩んでしまいそうです。でも、与えられた環境の中で、執着せず現状を受け入れ、ゆっくり、まったりとした時間を味わう、そして、心地よい生活を送るような工夫をすることで、自分流の幸福な時間を築く。

国を含め、お互いの信頼性が高く、将来に対する不安が少ないデンマーク。その中で、人生のプランを軌道修正できる自由な選択、自分の時間と家族の時間、働く時間がバランスよく取れるという意味で、本当に幸せなんだなぁと気づかされました。

(幸せ冒険家 小泉大輔)