第5回:いやなことがあっても常に笑顔(ハンガリー/ギリシャ編)

「50か国をめぐって教えてもらった世界の幸せ」では、これまで幸せの上位国を中心に見てきましたが、今回は新たな視点で、ランキング上位ではないものの実際に訪問した2か国で気づかされた「幸せ」についてご紹介したいと思います。

ハンガリー編

1か国目は、ランキング75位のハンガリーです。騎馬遊牧民族を起源とし、十二支を使っていたり、姓名の順で名乗るなど東洋文化的な側面が随所に見られます。なんだかアジアと深いつながりがありそうですね。

もう一つハンガリーで興味深いのは温泉です。首都ブタペストは、100を越す源泉と50近くの浴場をもつ世界有数の温泉都市です。紀元前のローマ時代から温泉の効能が知られ、およそ2000年前、この地で温泉を発見した古代ローマ人たちが培った社交場としての温泉文化を独自に発展させたようです。

さて、ハンガリーの幸せについてです。ワールドハピネスレポート2017によれば、東ヨーロッパのハンガリーは75位で、周辺国であるチェコの23位、オーストリアの13位とは大きく差があります。実際に、ハンガリー、チェコ、オーストリアの中欧3国を巡ってみて気になったのは、ハンガリーだけが突出して幸福度が低いということです。

調べてみると、その原因は消費税が27%と世界一高く、そして塩分やカロリーの高い食品に課せられるポテチ税や、犬を飼った人が納める犬税など、ありとあらゆるものに税が課せられる一方で、国民に還元されないために、国民の不満が限界にきていることが原因の一つと推測されます。

でも本当にそうなのか、どうしてもその真実を知りたくて、現地の人々に聞いてみました。すると返ってくる答えはみなさん共通して、戦争で負け続けたハンガリーの歴史が原因だという答えが返ってきます。

第一次世界大戦で敗戦国となり、第二次大戦当時はナチス・ドイツの強要で枢軸国とされ、やはり敗戦国となります。さらに1945年、降伏したナチス・ドイツに代わって、今度はソ連に支配されてしまいます。このように、戦争に負け続けた歴史を背負っているから前向きになれず、悲観的になっているというのです。幸福度ランキングが低い話は現地でも話題になるそうで、ハンガリー人が後ろ向きでいることは残念だと言っていました。

いろいろとお話を伺った中の一人に、とても興味深いお話をされる方に出会いました。日本語が堪能で、笑顔が素敵で、ホスピタリティにあふれるハンガリーの女性。とても前向きな発言をされる方だったので、思わずその訳を聞いてました。すると、その方は、現地の日本の自動車会社に勤めていることがわかりました。日本のことが大好きで、「私が前向きに思われるのは、もしかすると、一緒に働く日本人の前向きさの影響を受けているのかもしれませんね」とお話されていました。日本人が前向きで、かつ、よい影響を与えている・・・その話を聞いて、なんだかうれしくなりました。

ギリシャ編

そして、もう1か国ご紹介したいのは、ギリシャです。ギリシャというと、神話、星座にまつわる神々の国であり、また、たくさんの哲学者を生んだ国でもあります。地理的には、エーゲ海に囲まれ、人々ものんびりして、幸せなイメージなのですが、実は幸せランキングは87位と意外と低いのです。

ギリシャというと、個人的に浮かぶイメージはマラソンです。紀元前450年、ギリシャがペルシャと戦った「マラトンの戦い」の勝利を伝えるために、フィディピディスという兵士がマラトンからアテネまで走りぬいたことがマラソンの起源とされています。ギリシャに訪れたのは、このマラトンとアテネをつなぐコースを是非体感したいと思ったからなのですが、もう一つの目的は、ギリシャの幸せについてのリサーチです。

私がギリシャに訪れたときは、2015年。ちょうど金融危機が報じられたころです。

2015年6月、IMF(国際通貨基金)がギリシャに対する16億ユーロの融資について返済がなされずに延滞状態にあると発表し、事実上の債務不履行に陥りました。金融支援を続けていたEUも支援を打ち切ることを決定し、結果としてギリシャはIMFにもユーロ中央銀行にも借金をしたまま立ち往生という状況となりました。

私が訪れた時期は、旅行者を除き、現地の人は預金が拘束され、毎週数万円しかおろせない状況が続いており、非常に苦しい生活をされていました。

そのような状況の中で、非常に大きな気づきがある体験をしました。

それはまさにマラソンの時です。アテネマラソンは、さすがマラソンの起源となるだけあって、30キロ地点までずっと上り坂のなかなかタフなコースでもあります。

参加したとき体調を崩してしまっていたこともあり、ゴールの目前でかなり苦しくなり、足が止まってしまいました。完走できるか不安になっているときに、ギリシャ人ランナーが駆け寄ってきて、笑顔で、そして肩を組んできて、励ましてくれて、「ゴールは後すぐだから一緒に走ろう!」と、大変な勇気をもらいました。ゴールまでの間、何度かギリシャ人が近寄り同じような場面が繰り返されました。なんて温かい人達なんだろう……。世界中をいろいろと走ってきましたが、今までない体験でした。経済破綻して苦しい中にいる状況にもかかわらず……。ギリシャ人の温かさ、やさしさを感じました。

マラソンが終わって改めてよくギリシャの人々を見ると、深刻な顔をしている人がおらず、みな笑顔である気づきました。なぜなのでしょうか?

経済破綻した国だけに、ギリシャ人は余裕がなく、サバサバしていると思っていただけに、不思議でした。さっそく、彼らに聞いてみると「ギリシャでは、観光産業ってすごく重要なんだよね。外国の方がギリシャに来てくれるから僕たちはハッピーになれる。もし自分たちが笑顔でなかったら、観光客が来なくなってしまうでしょ。それに、将来のこと考えて不安なことばかり考えてもしょうがないよ!」とあまり先のことは考えず、今にフォーカスしていて、皆、とても前向きな発言でした。

2つの国で出会った方々から学んだのは、凹むような苦しい環境や辛い状況でも自分自身が流されず、それを客観的にとらえる。そして、相手に当たったり、いやな感情を外に出すのではなく、ポジティブな感情や笑顔を表に出すことで、幸せにも、元気にもなれるということです。どんな時でも自分次第でスイッチの切り替えができるものなのだと感じました。

そして、前向きな人と過ごしたり、環境に身を置くことで、幸せにシフトすることができるんだと学びました。

(幸せ冒険家 小泉大輔)