一人当たりの国内総生産(GDP)だけでなく、健康、社会的支援、信頼、自由、寛容さなどの要素を基準に国連が発表する「世界幸福度ランキング(ワールドハピネスレポート)」で2018年に1位となったのは、サンタクロースの故郷といわれているフィンランドでした。日本のランキングは54位とあまり高くありませんでした。
北欧に共通する幸せと、世界一の幸せのフィンランド
毎年、世界幸福度ランキングで上位を占めるのは北欧諸国です。北欧というとフィンランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの4か国のことをいうことが多いのですが、これにアイスランドを加えた5か国を北欧と呼ぶこともあります。
この、北欧の国々に共通するのは、税金と社会保障をあわせた国民負担率が、約70%と非常に高いこと、その一方で、教育費、医療費、出産費用が無料というところに特徴があります。また、あまり物質に執着しないシンプルな暮らしにも共通点がみられます。
僕自身、北欧に初めて訪れたに時に感じたことは、北欧での幸福は、毎日が楽しく、ワクワクするような幸せ(the happiest)というよりも、どちらかというと、将来への不安が少ないという意味での幸せ(the least unhappy)なのではないかということです。しかし、何度も北欧の国々を訪れ現地に住む友人たち話していると、それぞれの国ごとに、幸せの感じ方、そして、幸せへの取り組みが違うことがわかってきました。
今回は、北欧の国々の中でも、世界幸福度ランキング1位になったフィンランドにフォーカスしてみます。フィンランドでは、2017年1月~2018年12月までの2年間、実験的にベーシックインカムが実施されました。具体的には、無作為に選ばれた2000人の失業者に対して、働く、働かないに関係なく、国は、毎月560ユーロ(約7万円)を支給しました。現在までのところ、まだ、暫定的な結果しか発表されてませんが、少なくとも、ベーシックインカムを受け取った人の幸福度は向上したとのデータが出ているようです。
1991年にソ連が崩壊したことでフィンランドの貿易は途絶え、失業率が20%と5人に1人が失業する経済危機に陥りました。その時、政府がまず最初に考えたのは優秀な人材の育成です。そして、1994年から教育改革を行ない、教育の内容を見直すとともに、大学までの教育費の無償化を実施し、それが、現在の高い学力、高い幸福度にも結びついているようです。
友人から学んだ幸せのヒント~時間の使い方の自由さ
フィンランドはガラス製品の「イッタラ」、テキスタイルデザインの「マリメッコ」、陶器ブランド「アラビア」をはじめ、シンプルでありながら機能的で、ライフスタイルに彩りを感じさせるデザイン/アートの国です。
また、他の北欧諸国と比べても言語・文法が特殊で、フィンランド語の発音は日本語にとても近かったり、またフィンランド人はとても時間厳守だったり、シャイなところは、とても日本人に近いと感じます。
幸せという観点で、私の友人に教えてもらったフィンランドの興味深い話は、人口550万人に対して50万戸のサマーコテージがあるということ。休日は、のんびりと自然を感じながら、信頼のおける仲間や家族と過ごす時間を大切にしているということ。つまり時間に追われることなく、むしろ、時間を自分でコントロールして、心から休む、その休みのコツを知っているのだといいます。日本人はどうしても、休日といってもメールをチェックしたり常にオンラインモードとなってしまい、完全にオフにすることはなかなか難しいと思うのですが、フィンランド人は何もしないことをしっかり享受しているようです。
ムーミンから学ぶ幸せのヒント~毎日をマイペースで過ごす
そして、フィンランドというと作家トーベ・ヤンソンの小説、漫画ムーミンが有名ですね。最近、日本でもムーミンの物語を体験できる最新テーマパーク“ムーミンバレーパーク”がオープンしたりと日本人になじみのあるキャラクターですが、フィンランドでは、やはり、みな小さいころからムーミン一家の物語を読んで育つほど、ムーミンはフィンランド人のアイデンティティともいえる存在だそうです。
僕自身の小さい頃の記憶では、ムーミンの物語はスローライフで、平和でほのぼのとしたストーリーだと思っていたのですが、改めて読み返すと、異常気象、大洪水、干ばつ、触ったら感電するニョロニョロが棲息するなどなどの厳しい環境が舞台であることに気づかされます。そのような厳しい環境の中で、毎日をマイペースで過ごすのがムーミン谷の住民なんですね。
そのような環境で、ささやかな幸せや素朴な幸せを感じるヒントがムーミンの物語にはたくさんあります。
例えば、ムーミン谷の仲間たちは心配し過ぎについて次のように考えます。
「だれも心配し過ぎないって、よいことでした。ムーミンたちは、他の人のために、やたらと心配をかけたと思って良心を痛めなくてもすみます。それに、ありったけの自由をあたえあっていることにもなるのです。」
また、旅人であるスナフキンは、ふらっとやってきて、とても大事なメッセージを伝えてくれます。
「おだやかな人生なんてあるわけないですよ」
「人の目なんか気にしないで、思うとおりに暮らしていればいいのさ」
「「そのうち」なんて当てにならないな。 いまがその時さ」
危険と隣り合わせの中でも、周囲に影響されて毎日を過ごすのではなく、自分にとって本当に大切なことは何かを考え、毎日をマイペースに楽しく生活することをムーミンの物語から学べますね。
忘れ物をして気づいた幸せのヒント~世界一の安全
最後に、もう一つ、フィンランドの幸せの要素を伝えたいと思います。それは、世界で一番安全な場所だといわれていることです。日本も、同様の話がされますが、フィンランドでも、失くした財布や携帯電話が持主に戻ってきたり、また、夜遅くに、一人で街の公園を歩いても、安全だといわれます。
僕自身も、フィンランドを訪れたときに、そのことを痛感しました。
数年前の話になります。アイスランドに向かう途中にフィンランドに立ち寄った際のことです。その年は地球の電磁波の影響で、オーロラが一番よく見えるといわれた年でした。年末に一眼レフカメラとオーロラを撮影するための特別な機材をいろいろと購入し、最高の1枚をカメラに収めようと気合を入れて向かった旅でした。そのため大荷物になってしまい、スーツケースに入りきらず両肩にカメラとカメラ機材をぶらさげる状態でした。
フィンランドのホテルから空港に向かう経路は、途中のバスターミナルまでタクシーで移動し、そこから先はバスに乗り換えるのが一番早く便利だとホテルの人にアドバイスを受け、少し時間にゆとりをもって空港に向かいました。ところがバスを降りる直前に、先ほどまで肩からぶら下げていた(と思いこんでいた)一眼レフカメラを収容したケースがないことに気づきます。
すぐにホテルへ電話して忘れ物がないか確認すると、どうやらホテルではないことがわかります。電話口でホテルの人に現在の困った状況を説明すると、とても親切に相談にのってくれ、いろいろと動いてくれました。どうやらホテルの人はタクシー会社とやり取りをして、僕が先ほどまで乗っていたタクシーの運転手と連絡を取ってくれたようです。
5分後にホテルから電話があり、なんとタクシーの中でカメラケースが見つかり、夕方ならば運転手さんがホテルに届けることが可能だと連絡がありました。
でも、僕は今空港。そして飛行機の出発時間が迫っている。さすがにカメラはあきらめるしかないなぁ、と思っていたところ驚く展開に。
ホテルの人が再度タクシー運転手さんと交渉してくれ、その結果タクシーの運転手さんは仕事の予定を変更し、大至急カメラを届けに空港に向かうとの連絡をいただきました。現在のタクシーの位置からすると、1時間。飛行機の出発時間を考えると、ぎりぎりの状況です。本当に来てくれるのだろうかと不安に感じながらも、ちょうど1時間後、タクシードライバーは満面の笑みでカメラを届けてくれました。通常では考えれない、温かいフィンランドのホテルの人、ドライバーの人の対応に感動しました。
そして、おかげさまで、アイスランドでは、オーロラを見ることができ、最幸の一枚の写真が撮ることができました(その時の写真は、こちらです)。
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自然を感じ、マイペースで自由に過ごすことがフィンランドの幸福度の高さにつながっていることはもちろんだと思います。しかし、困った時に相手の立場で考えて行動する思いやり、そして安心安全な環境であるところも幸福度の高さにつながる。これは日本人にも通じる幸せだなぁと実感しました。
(幸せ冒険家 小泉大輔)