毎年いろいろな国を旅し、たくさんの方々との出会いを通じて、いろいろなものの見方、考え方、そしていろいろな幸せのあり方、幸せの感じ方があることを学ばせていただいています。特に痛感するのは、日本が本当に素晴らしい国であることです。2019年のコラムの最終回である今回取り上げるのは日本です。旅を通じて出会った幸せの達人から学ばせていただいた、幸せのヒントをお伝えしたいと思います。
エジプトで日本の素晴らしさを再認識 ~当たり前と思わない
2018年の年末に訪れたエジプトでは、日本が大好きで日本に何度も訪れているカイロ大学のモハメッド先生と旅をご一緒させていただきました。エジプトの街を一緒に歩いていると、10分に一度は声をかけられるほどに皆に愛され、また、とても幸せそうなモハメッド先生。ご本人も常に幸せを感じているといいます。
このモハメッド先生からは、古代文明や古代エジプト人の知恵など、たくさんのことを教えていただきましたが、特に大きな気づきだったのは日本のすばらしさを新たな視点で学ばせていただいたことです。
「小さい時からピラミッドを見たくて、ようやく今回叶った!」
と僕が伝えると、モハメッド先生からこんな話がありました。
「一生に一度の体験をしたいと、日本からも毎年たくさんの人がピラミッドに訪れて感動したと言っているけれども、日本の富士山は本当にすごいよね! でも日本人は、富士山というすごい山があるのに、富士山があることを当たり前のように思ってしまっているように感じるよ。」
モハメッド先生自身も、ピラミッドが見えるすぐそばで生まれ育ったそうで、当然ピラミッドがあるのが当たり前の生活ではあるのですが、いろいろな人を案内するにあたり、それではいけないと、常に新しい視点で見るように工夫し、心がけているのだそうです。だから見慣れているピラミッドでも、いつも新しい発見があるというのです。
たしかに日本にいると、その存在が当たり前のように思ってしまっている富士山。でも、もっともっと意識し、工夫すれば新しい視点で見ることができ、そのすごさを再認識できるというのは大きな気づきでした。
そしてモハメッド先生から深いシェアがありました。2011年初頭に東・北アフリカ地域の各国で本格化した一連の巨大な民主化運動の「アラブの春」の時の話です。長期政権が続いていたエジプトで初の民主的な選挙が行われたのですが、経済状態は改善されず、大規模デモが発生します。そこに軍が介入して、町全体が戦争のような状態になり、緊張状態が続いたそうです。出張中だったモハメッド先生は、家族と連絡を取ることも、また、家に帰ることもできない状況で、この時はさすがにもうだめかもしれない、と思ったそうです。今は経済環境も安定して通常の暮らしができるけれども、普通の生活ができることがいかに幸せであるかをもっと感じる必要があるとお話されてました。
普通の暮らしができ、それを当たり前と思ってしまっている自分がいかに幸せボケしてしまっているかに気づかされました。
べてるの家 ~弱さのさらけ出しができる安心安全な環境
次にご紹介するのは、北海道浦河町にある「べてるの家」です。世界中から注目を集める精神障害等をかかえた方々のコミュニティーです。
べてるの家では、当事者どうしが支え合うことで症状を落ち着かせ、幻聴や妄想と共存しながら地域で暮らす取り組みが行われています。
以前から是非訪問させていただきたいと思っていたのですが、昨年ようやく実現し、ワークショップに参加させていただきました。
そこでは今までの経営学の考え方が書き換えられる体験をするとともに、たくさんのことを学ばせていただきました。
べてるの家は、精神障害を抱えた人たちが、過疎化が進行する中で「町のためにできることはないか?」と考えたところから生まれたそうです。
浦河町の特産品である日高昆布の袋詰め作業、そして無農薬の野菜の販売や地元のイチゴを使った加工品など、次から次へと新しい分野で起業し、ちゃんと利益も上げています。しかも驚くのは、精神障害で社会でドロップアウトした人たちで作る会社だということ。だから、そこには、野心がまったくないのです。
社会福祉法人浦河べてるの家の理事の向谷地生良さんにお話を伺いました。
「ここでは社会復帰ではなく、社会進出と捉えています」
また、働かれている障害者の方々に話を伺うと、未だに幻聴が聞こえ、世界中の人が悪口を言っているように聞こえたり、人間アレルギーで、症状が悪化すると突然爆発してしまったり。でも、べてるの家の理念は「弱さの情報開示」「昇る人生から降りる人生」など安心安全が徹底され、皆とても幸せを感じています。
とくに、べてるの家がすごいのは、障害者の方が毎週自ら当事者研究を行い、仲間に発表していることです。それは、誰もがもっている「生きにくさ」を仲間と共有することで、研究というアプローチから「自助―自分の助け方」や理解を深めるというものです。
たとえば「上から目線」に怯えていた方は、研究している中で、自分が「下から目線になっている」ということを発見していったそうです。
私が訪問した夜は、べてるの家の方々と一緒にバーベキューパーティーをさせていただき、いろいろなお話を伺い事ができました。
織物などの物品の生産・販売を行うリーダーからは、
「私は躁鬱がひどかったんだけど、ここに来て毎日が本当に幸せ。もちろん喧嘩はよくあるけど、みな表裏が全くないわね」
さらに、幸せについて尋ねると、
「私が幸せを感じられるようになったのは、自分自身のことを知ったから。どん底を経験してみて、初めて自分自身を知れたのよ。だから毎日が幸せなの」
べてるの家の人は、皆さん弱さをさらけだし、お互いをとてもやさしく受け入れていることに気づきます。
べてるの家は、人がありのままに、そしてそれがパワーになっていく、新しい組織のあり方であることを学びました。
父から学んだ幸せ ~過去や未来でなく現在に焦点
私が「幸せ」について考えるようになったきっかけは、父の病からです。
私の父は、ラテン音楽の歌手、そして高倉健さんや勝新太郎さんと共演する映画俳優として活躍した、いわゆる芸能人です。父は常に笑顔で前向きで、本当に幸せそうでした。
その父が、糖尿病から始まり、脳梗塞となってしまいます。奇跡的に回復したものの、心臓機能の低下により動脈バイパスや心臓弁の形成・置換の大手術を行うことになります。不可能と言われた手術でしたが、すばらしい先生との出会いにより手術は成功します。ところが、体力が弱っている状態で悪性の菌が足にまわり、両足を切断しなければならないことになりました。あんなに前向きで幸せに満ち溢れていた父も、それ以来笑顔が消えてしまいます。
どうしたら父が笑顔を取り戻すのか。そのころから「幸せ」とは何だろうと真剣に考えるようになり、幸せを見つける旅が始まりました。幸せと言われる国をめぐり、「幸せとは何か」、「幸せな国の人は、本当に、本当に幸せなのか」、現地の方々にお話を伺うようになりました。「幸せ」というテーマとの出会いは、父から気づかされたことです。
その父が亡くなる前の言葉はとても温かく、印象的でした。
「この料理、ほんと、おいしいね!」
「この花、ほんと、きれいだね!」
父は自分の寿命がそれほど長くないことを知り、その瞬間、瞬間に感動し、その日、その日を大切に生きていました。
過去や未来でなく現在に焦点を当て、「足りないものを手に入れる」幸せよりも、小さいことにでも「恵まれている」「手に入っている」ことに幸せを感じることが大切だという、幸せの本質を父から学びました。
「思い込み」と「幸せスイッチ」
幸せの達人の方々にお会いして、自分自身に向き合って、最近特に感じることは、「思い込みが、自分自身の幸せに影響を与えている」ということです。
もちろん、辛く苦しい時には、幸せを感じる余裕はまったくないのですが、抜け出せた瞬間に、その一瞬のタイミングで幸せになり、世界が変わること実感します。
と考えると、辛いと思っていることも、自分の思い込みなのではないか?
実際に幸せの達人と話していると、辛い、苦しいと感じるようなことを、上手にプラスのエネルギーに変換していると感じます。なので、最近は辛いことがあった時は、この辛さは長く続かない、と自分に言い聞かせ、抜け出した後をイメージするようにしています。
もちろん、なかなかこれが難しいのですが、どんな些細なことでも幸せと感じられる柔軟さ、寛容さ、イメージ力、鈍感力……。ある意味、幸せのスイッチが入れば、どんな状況でも幸せになれるんだなぁと思います。
そういえば、テニスの錦織圭選手が2010年の手術後、テレビのインタビューでこんな話をされていました。
「過去のことを振り返ってばかりいましたが、ふと目の前の目標に集中したら、いやなことは消えてしまいました。」
最後に
やはり、海外を訪問して気づくのは、日本という素晴らしい国の再認識です。改めて、日本はやはり、幸せだなぁと感じます。
自宅の近所に、とても美味しく評判の洋食屋さんがあります。その壁には、小説家の開高健さんの直筆の言葉がかざってあります。
「明日、世界が滅びるとしても 今日、あなたはリンゴの木を植える」
どんなことがあっても、どんな状態でも、平常心で、マイペースでいられることは幸せだと思います。幸せは、身の回りにたくさんある。そこに気づくかどうかが大きなポイントだと思いました。
全4回にわたり、お読みいただき誠にありがとうございました。
2019年3月17日(日)に日比谷公園で行われる国際幸福芸術祭(Happy Day Tokyo 2019)では、たくさんの幸せを感じられるイベントが企画されています。ご一緒できることを楽しみにおります!!
(幸せ冒険家 小泉大輔)